かわって、急速に普及しだしたのがコンピュータによる電子組版である。コンピュータだけで印刷の版下を作る電子組版機は、操作が簡単で生産性向上も大きい。ワープロの普及によって、ワープロと機構の似ている電子組版機器類も急速に価格がこなれ、中小企業でも手のだしやすいものとなっていた。しかも訂正には滅法強い。文字を加えたかったらキーを1発たたけばいい。それだけで自動的に文字が入れ代わる。挿入したければ挿入キーを押し、文字を入力するだけで、うしろの文字は何行でも自動的にずれていく。直しの利便性ということでいえば、手動写植はもちろん、活版よりもさらに有利であった。「なにも、活版にこだわる必要はあらへんのやないか」私がそう言うと、間髪をいれずに親父は持論の説明をはじめた。「そこが素人のあさはかさなんやね。電子組版機とか電算写植機いうかて、むずかしいことになるとでけへん。脚注とか、和欧混植(日本語と欧文を混ぜて組版すること)が、まともにできるシステムにはお目にかかったことがない。第一、漢字が全然足らんやろ。地名、人名、漢文物と考えてみいな。ものすごい数になるやろ。書体みたいなもんナンボ揃えたかてあかんね。字種がないことにはな。だから、うちみたいに字のたくさんいる学術書の印刷を中心にやっとるとこには、電子組版は向かんのや」親父はこうした議論を印刷関係の会合でくりかえし行なっていた。それは活版業者の意地といってもよかった。だが、N印刷とて、むずかしい学術書ばかりやっていたのではない。
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