ヨーロッパを旅すると、彼らのグループに出会うことがある。ジプシーと聞くと、小説や歌劇に登場するカルメンぐらいしか思い浮ばないが、一般的にジプシーは、黒髪で、東洋的な風貌をもち、ヨーロッパのどこの言葉とも似ていない言葉をしゃべる民族である。そして、彼らは、家屋に定住することを承知せず、昔は馬車、現在はキャラバン(自動車で引く大型キャンピング・カー。ジプシーはこれをトレーラーという)に家族をのせて流浪生活を送りながら、独特の生活様式を保持している非常に変わったグループとされている。(「旅するジプシーの人類学」木内信敬訳晶文社刊)見方を変えれば、自由気ままにこの世を生きる、羨ましい人生を送ることが出来る民族とも言えようが、ジプシーとはどこから来たのだろうか、なぜ定住しないのだろうかなど、不思議に思える点もいくつかある。ジプシーが西ヨーロッパに入ってきたのは一五世紀のはじめの頃とされているが、そもそもジプシーという名称も、民族に対する不確かな理解によるところが大きい。というのは、はじめにイギリス人が、彼らがアフリカのエジプトから来た民族と間違え、「エジプシャン(エジプト人)」と呼ぶようになったが、これがいつの間にか「ジプシー」になっていったらしい。その後ジプシーに対する研究は、一八世紀になって、彼らの起源をインド西北部(現在のパンジャブのあたり)と推定するようになった。決め手となったのは、ジプシーの使う言語であった。