溜め息がでるのは、翻訳学習の動機を聞いたときだ。ほとんどの人の答えが、得意な語学力を活かせる仕事をしたいから、自宅でできる仕事だからのどちらかなのだ。この答えになぜ溜め息がでるかは、たとえばすぐれた翻訳家がたどってきた道筋をみてみれば理解されるだろう。翻訳家かたどってきた道筋をみていくと、翻訳者への自然の道と呼べるようなものがあることに気づく。第一の道筋として、原著または原著者に心酔し、それを自国に伝えたいと熱望して翻訳に取り組むようになった翻訳者が少なくない。翻訳の歴史に名を残す偉大な翻訳家には、この道筋をたどった人が多い。第2章で紹介した偉大な翻訳家のなかでは、玄奘とティンダルが典型だろう。原著や原著者を自国に紹介する方法は翻訳だけではない。評論や研究書を書く方法もある。だから、この道筋をたどってきた翻訳家は同時に評論家であったり、学者・研究者であったりすることが多い。